空を見上げて、月を描いて
「お前の記憶が絶対戻らないって言われてたら、俺はたぶん、お前がなにも知らないままでいることを止めなかった」
湿っぽい、気弱そうな声でイチは呟くようにそう言った。
「奏汰。ちゃんと覚悟してきたか」
もう何度目かわからない、その言葉。
イチはあの時と同じように、俺の目を真っ直ぐに見て問いかける。
「今度は、大丈夫」
明日お前は死ぬ、って突然言われても動揺しないくらいには、いろんなことを考えてきた。
受け止められるようになるって、覚悟決めて今日まで来たんだ。
「だから、話していいよ。教えてよ、全部」
俺が知らない、俺のこと。
イチだって、今日この日がいつか来ることをわかってたんだろ。
俺よりもっと前に、知ってたんだろ。
イチはもう、楽になるべきなんだ。
静かに目を伏せたイチは、また静かに目を開いて、泣きそうな顔で言った。
「お前、“葉月”ってやつ知ってるか」