空を見上げて、月を描いて

 そのセリフにはどこか聞き覚えがあった。


 そうだ、それはあの日、美月が……。


「あいつが一度だけ、お前に聞いたことあるって言ってたから、知ってるはずだ」


 うん、知ってる。


 覚えてる。


 けど、その“葉月”が誰なのか、俺は知っているようで、知らない。


 見たいのに見えない、フィルターがかかったみたいに、もやもやする感覚。


 イチは、その“葉月”を入れた4人の思い出の場所がこの丘だと言った。


 俺にはない、俺の記憶。


 バラバラな欠片が宙に浮いて彷徨って、元に戻ろうとする感覚。


 だけど、俺の中にその時のことは甦っては来ない。


 イチは、この場所で、4人でよく集まっていろんな話をしたことを、ひとつひとつ自分自身も内容を思い起こすように俺に話す。


「あの日、美月が階段から落ちて――」


 ……そうそう、それで美月は足を捻挫したんだよな。


「だけど、どうしてもここに来たいって言うから――」


 ……だから、俺がおんぶして、息切らしながらもここまで上ったんだっけ。


「葉月はお前の後ろで――」


 ……俺におんぶされてる美月の背中を、俺が少しでも進みやすいように優しく押してくれていたんだっけ。


 イチは荷物持ち、させられてたんだよな。


 そう、だったよな……。


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