空を見上げて、月を描いて

 喪失感だけが俺を支配して、美月は生きてるって確かめたくて、イチに促され来たのは『高梨家』。


 美月と、葉月の家だ。


 イチがチャイムを鳴らすと、全部知っているって顔した切なそうな、だけどほっとしたような顔の、彼女たちの母親が出てきてくれた。


 玄関に一歩踏み入れて、ひとつ。


 見慣れたローファーが2組置いてあった。


 視線をずらして壁際を見れば、またひとつ。


 色違いのお揃いの可愛い傘が2本、置いてあった。


 玄関を上がってすぐ右側に、ひとつ。


 並んだ2つの同じような扉にかかっていたプレート。


 ひとつは裏返っていて、もうひとつには“みづき”って書かれてた。


 亡くなったのは美月のはずなのに、どうしてか裏返されているのは“はづき”の方だった。

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