空を見上げて、月を描いて
俺の大学生活は、悩んで悩んで考えて悩んでバイトして、の繰り返しだった。
悩む時間が多かったのは、失くした記憶を取り戻したことにももちろん関係あったし、それに伴って知ったこと、気付いてしまったことを整理するのに時間がかかったからだ。
美月の死を知って、それを思い出しても涙が滲まなくなるまでに、1年以上は費やして。
同じくらい、美月として傍にいてくれていた葉月のことも頭から離れなかった。
イチが言った“あいつ”がどっちを指してのことなのか、俺は自分の気持ちがわからないまま大学の卒業式を目前に控えていた。
葉月の行方も知らないまま。
「ずっと葉月のことが好きだった」
イチにそう打ち明けられたのは、卒業式の3日前。
なんとなく気付いてはいたけど、こうしてちゃんとした言葉で聞くのは初めてのことで、胸がきしんだ。
東京で就職したイチはたまたま休みがとれたとかで、こっちに今日帰ってきたらしい。
1年見ない間に、イチはスーツを着こなすかっこいい男にいつの間にかなっていた。
俺とは違う、大人っぽいイチ。
俺は、みんなと過ごしたこの場所から離れがたくて、こっちで就活して春からは1年遅れで新社会人になる。
知らない間にこんなにも時間は経って、美月が亡くなってから8年経ち、葉月が姿を消してから5年も経った。
考えるのはいつだって、そのことだ。