空を見上げて、月を描いて

「高認試験に受かったら、お前に話したいことがある」


 真剣な顔でイチがそう言ったのは、高認試験を一週間後に控えた7月の終わりのことだった。


 地元の大学に進んだイチは彼女が消えた後も俺の傍にいてくれて、以前と変わらず暇さえあれば高認の勉強に付き合ってくれたし、大学受験用の参考書を貸してくれたり、アドバイスもしてくれていた。


 どうしても早くふたりに追いつきたくて、高認試験を受けたらすぐに大学受験をする予定で、半年前まで受験生だった彼女とイチと一緒になって、毎日毎日勉強に明け暮れていた。


 一発で高認試験をパスして、そして、その年に大学入試に合格することを目指す。


 その目標は考えてみれば無謀にも近かった。


 高校の勉強内容をほぼ自力で学ぶのは容易くない。


 それに、隣に彼女がいない今、なにを目標にしていいのかも見失いかけていた。


 そんな時にイチが言ったその一言に、俺はどれだけの希望を見出していたんだろう。


 たったその一言に込められた意味が、真っ直ぐに俺を見る目が、ただただ痛くて熱くて、胸が苦しくなったのを今でも覚えてる。


 彼女とイチっていう先生がいたからがんばれた。


 彼女と一緒にがんばってきた記憶を掘り起こして、またがんばって。


 そんな俺を、母さんも父さんも応援してくれていた。


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