空を見上げて、月を描いて
「……お前に黙ってたことがある」
唐突に言ったイチ、いつか見た時の顔と同じ表情をしてた。
「葉月の居場所、知ってるんだ」
イチのあの問いかけからもう2年は経つのに、俺はぐだぐだ悩んだままで、行方すら知らない葉月のことを考えては日々悶々と過ごすしかなかった。
葉月がどこにいるのかなんて俺は全く知らなくて、それは周りも同じなんだと思ってた。
だけど、イチの苦い顔を見れば、知らなかったのは俺だけだってすぐにわかった。
「今、同じアパートに住んでる」
「は……?」
黙ってて悪かったと、イチは何度も言った。
葉月が東京近辺にいることを、俺以外のみんなは知っていたらしい。
だからイチは東京で就職して、葉月を探すつもりだったんだって。
いくらなんでも無謀だろって思ったけど、案外見つけ出すのは簡単だったとイチは言う。
葉月の通っている大学は、両親だけが知っていた。
大学4年になるとゼミの専任教授に進路報告をしないといけないっていうのは大体どの学校でも同じらしく、葉月の両親を通してイチはその辺の情報を仕入れていたらしい。
親元離れて暮らす学生の親がそういうふうに問い合わせてくるのはよくあることらしく、身元が一致すればある程度の情報は教えてくれるらしい。
この時ばかりはイチのことを本当にすごいと思ったし、ちょっと怖いと思った。