空を見上げて、月を描いて

「覚悟をしておけ。今からちゃんと、あの時みたいに」


 イチは俺にそう言った。


 何年前かに見た険しい顔じゃなく、泣きそうな歪んだ顔で。


 葉月が好きだったと言ったイチ。


 きっとその気持ちはまだ色褪せることなく、その胸に刻まれたままなんだろう。


「俺は、お前を好きな葉月を好きになった。葉月の望みが俺の望みで、葉月の幸せが俺の幸せになる。……あいつ、離れてからもずっと、お前のことを想ってる。だから、ちゃんと覚悟して、泣かせてやる準備してやってくれ」


 もうあいつにあんな顔させるなって、イチは言った。


 初めてイチが泣いているのを見て、その涙がどんな意味を含むのか、全部を知るには難しくて。


 その覚悟があの時より重いのかはわからないけど、ちゃんとしなくちゃいけないなって本気で思った。








 美月の死、身代わりになった葉月。


 それからのこと、これから歩んでいく未来のこと。


 今日もあの場所で考える。


 上に顔を向け、月を見ながら。




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