空を見上げて、月を描いて
イチが言った半年。
それは俺に与えられた準備期間。
公認試験も無事に合格したし、とりあえず残すところ目標は大学合格だけになった。
勉強に明け暮れる日々の中、記憶を失ったことと向き合って、これからのことをたくさん考えてそれなりに覚悟を決めてきたつもりだったけど、まだ俺にはそれが足りないとイチは言った。
ただ美月のことを知りたいだけなのに、なんで誰も教えてくれないんだ。
覚悟って、なんなんだ。
随分長い間いろんなことを想定して、最悪の自体も考えたけど、俺に思いつくのは精々「美月が突然病気にかかって、もう命が長くない。だから姿を消した」なんていうチープなドラマによくありそうな設定そのもので。
自分で想像しておきながら、心の中ではそんなことあるはずないって何度も唱えてた。
だって、美月なら絶対、もし本当に病気だったんだとしても、最期まで傍にいてほしいって俺に願うはずだって自信があった。
なにも根拠はなかったけど、美月はそういうやつ。
寂しい時は素直に甘えてくるやつだったから。
俺に与えられた半年っていう準備期間。
それはイチが俺に与えた試練でもあって、大学受験への激励でもあって、ひどく残酷なことだった。
あの時イチは、どんな気持ちで、どんな覚悟で、俺に話そうと決意してくれていたんだろう。