オフィス・ラブ #3
驚かすなよ、と笑いながら、そばに来て。

気楽に片腕で、私の頭を胸に抱く。


私はまだ、手に携帯を握ったままで。





明かりも、つけずに。


鞄も置かずに。

煙草すら、取り出さずに。



何よりも先に。

まず、私に電話をしてくれた。



ねえ、新庄さん。

自分でも信じられないんだけど。


そんなことくらいで、私は。





涙がとまらない。





「お前、寝てたろ」



なんか、あったかい、と首筋に顔をうずめながら言う、その耳が、冷たい。

私の身体が熱いのはたぶん、泣いているせいもあるだろう。


新庄さんのスーツからは、親しんだ、煙草と香水の他に、かすかに、知らない匂いがする。

遠出の匂い。



泣くな、とたしなめるように言って、両腕で私を抱きしめてくれる。

子供にするように、何度も頭をなでてくれる、その手が、あまりに優しくて。


私はたぶん、新庄さんの前で、初めて。

こらえきれずに、嗚咽を漏らした。

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