オフィス・ラブ #3
「そうだ、これ」
忘れないうちに。
煙草をくわえながら、ライターを探してポケットを叩いていた新庄さんが。
思い出したように、スラックスの後ろポケットから財布を取り出すと、小銭入れに入れていた、私のピアスを手渡してきた。
腹が減った、と彼が言いだしたので、ふたりで買い出しに行ってきたところだった。
キッチンのレンジを使いながら、それを受けとって、微妙な気分になる。
ピアスは、キャッチがなかった。
だけどあの部屋で落としたのなら、じっくり探せばきっと見つかるだろう。
久しぶりに、左右そろったピアス。
なくさないようにと、ここでつけてしまうことにした。
今つけているキャッチで代用しながら、3つの穴をつけ替える。
「これ拾ってくれた方とは、その、仲がいいんですか」
「さあ、誰が拾ったかは、知らない」
ようやく見つけたライターで火をつけながら、シンクにもたれた新庄さんが言う。
え?
「…同期の、女性の方でしょう?」
「そうなのか?」
ふっと煙を吐いて、驚いたように、こちらを見た。
「この間の電話で、そうおっしゃってましたけど…」
「そんなこと、言ったのか」
ちっと舌打ちすると、ビール飲もうぜ、とカウンターのコンビニの袋をあさる。
どういうこと?
「じゃあ、誰から受けとったんですか?」
「人事総務部名義で、いきなり送られてきた、社内便で」
何事かと思った、と眉をしかめて、ふたりぶんのビールを持ってリビングに戻った。
仕事中にピアスが送られてきたら、そりゃ、ぎょっとするだろう。
「寝室のエアコンの入れ替え工事があって。その時、見つかったらしい」
「あの同期の方、人事総務ですか」
「そう。移籍前も、本社の人事だった」