オフィス・ラブ #3
そうか、借りあげのマンションだから、工事に人事総務部が立ち会うんだ。

あの人がそれを担当して、見つけたんだろう。


だろうな、と新庄さんもうなずく。

温めたお弁当をローテーブルに並べて、私もラグに腰を下ろした。



「それならそうと、新庄さんに言えばいいのに、拾ったって」

「だろ、だから苦手なんだよ、あの手の」

「一緒に飲んでたんでしょう?」

「いや、部署の飲み会の2軒目で、偶然あっちのグループと一緒になったんだ」



そういうことだったのか…。

でもあの人、確実に新庄さんに何か、特別な思い入れがあるよね。

そう考えて、はっと、堤さんの言葉が脳裏によみがえった。



「同期食いって、本当だったんですか」



思わず、堅い声が出る。

プルタブを開けようとしていた新庄さんの手が、一瞬ぴくりととまったのに、私は気づいた。

じろ、と見る私に、気を取り直して開けた缶を、渡してくれる。

もう一本を開けながら、それは嘘だ、と煙草をくわえた口がつぶやいた。



「ひとりも、食ってない」

「何人かは、食う寸前までいったって、聞こえますけど」



若干、引っかかったので、そう言うと。

新庄さんが、嫌なものでも見るように、私をじろじろと眺めて、お前、と低い声で言う。





「堤に、似てきたな」





怒りでわなわなと震える私を無視し、やだやだ、と煙を吐いて。

私の持っていた缶に、適当に自分の缶を合わせると、ひとりで勝手に飲みはじめた。





まあ、それを取りあげて問い詰めたところによると。


昔何があったんだか、あの人にはとりあえず今も近づきたくないらしく。

その彼女が、新庄さんがひとりのところを目ざとく見つけてきたので、挨拶もそこそこに別のテーブルに移ったところ。

携帯を置きっぱなしにしてきたことに気がついて、戻ったら、勝手にそれを使われていたと。

頭に来て奪い返したら、よりによって私からの着信中だったと。


そういうわけらしかった。


聞けばなんだか、間抜けな話で。

その時の新庄さんを想像すると、笑えてくる。

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