オフィス・ラブ #3
「恵利ちゃん?」
聞いたことのある声に呼びとめられて、駅前の雑踏の中をきょろきょろした。
照りつける日差しの下、見るからに質のいいワンピース姿で手を振る女性が、目にとまる。
「絵里さん!」
うかつに立ち話なんてしようものなら、たちまち暑さにやられてしまうだろう。
ふたりともそれをわかっているので、足をとめずに駅へ入った。
「そっか、取引先、このへんだもんね」
「はい、絵里さんは?」
何度か新庄さんの家で会っているけれど、こうして街中でばったり会うのは、初めてだ。
「うちの路面店が近くにあってね、見てきたとこ」
「モデル店舗になってるところですね」
「さすが、よく知ってるね」
そう笑う絵里さんは、大手化粧品メーカーで、宣伝に携わっている。
百貨店向けが主なブランドの、全国でも数少ない路面店がこの先にあるのは、有名だった。
「オープン当初、拝見しましたから」
仕事熱心だねえ、と絵里さんに言われて、少し恥ずかしくなる。
だってそういう話を聞くと、絶対見てみずにはいられないのだ。
こういう仕事をしていたら、もう、仕方ないのだ。