オフィス・ラブ #3
「どうして新庄さんが…」
「それは後で。あのね、お茶を出す時に、中の様子を観察してきてほしい」
「様子、ですか」
「上座が本部長だ。彼の様子を、報告して。詳しくは後で説明する」
小声でそう頼まれ、さっぱり事情が読めないながらも、了解しました、と返事をした。
「ありがと、どうだった」
なるべくゆっくりお茶を出して、できるだけ情報を仕入れてから、指定された喫煙所に行くと。
スタンドテーブルを挟んで、ふたりが煙草を吸っていた。
「本部長は、そうですね、楽しそうで、誇らしげでしたが、一番には、萎縮されているようでした」
「どんな話をしてた」
「一般的な経済のお話と、それに絡めた、広告業界の低迷のお話。あと唐突に、水上スキーの話題が」
本部長の趣味だ、と新庄さんが堤さんにうなずく。
「お前なら、あの状態の本部長を、落とせると思うか」
そう問われて、トレイを抱えて考える。
たとえばあの場で相対しているのが、私だったとして。
本部長に、とんでもない無理をお願いしなきゃならない立場だったとして。
「8割…5分」
答えると、新庄さんと堤さんが目を見あわせる。
「こいつが言うなら、間違いない」
「第一関門突破、かな」
言いながらふたりが一瞬だけ、腕相撲をするみたいに、手を取りあった。
その様子を、ぽかんと眺めて思い至る。
…何か、たくらんだんだ。