オフィス・ラブ #3
「こいつんとこのOB会、強烈な絆で有名なの、知ってるでしょ」
「聞いたことあります」
「本部長も同じ出身で、しかもOB会の幹事だったんだよ。てことは、相当どっぷり浸かってるだろうから」
使わない手はないと思ったわけ。
テーブルにひじをついて、にやっと笑う堤さんの、手段の選ばなさが恐ろしい。
彼の説明によると。
そのOB会の理事のひとりが、もうリタイアした、うちの会社の元役員だったのだ。
さらに偶然、その元役員は、今現在大阪に住んでいて。
それで、説得役として、新庄さんに白羽の矢が立ったらしい。
「現役の営業部員じゃないところが、逆に味があるでしょ」
「確かに…」
「広告主のためにも、この乱暴なやりかたを改めるよう言い含めてほしいと、男泣きで申し入れてきてくれたんだよね」
「泣くか」
言い捨てて、新庄さんが煙を吐く。
片手をポケットに突っこんで、上背のある均整のとれた身体で、立っている。
この、東京のオフィスに。
本部長との会合が急きょ、今日に決まり、元役員に同伴して、新庄さんもこっちに出てきたのだ。
場所がクライアントの会社でなく、うちのビルであることが、すでに本部長の負けを暗示しているような気がする。
「来るなら来るって、教えてくれたらよかったのに…」
そう文句を言うと、新庄さんがぎろっと堤さんを見た。
堤さんが、あは、と笑う。
「お前、そのことはこいつに伝え済みだって、言ってたろ」
「せっかくなら、サプライズのほうが面白いじゃん」
自分で言わないのが悪い、とそ知らぬふりを決めこむ堤さんに、言ってやって、言ってやって、と心の中で声援を送った。
「でもお前、得したよ」
堤さんが煙草を消しながら言う。
「元役員とつながったなんて、戻ってからも、相当有益だろ、俺に感謝してもいいくらい」
「そのうちするかもな。確かにこれは、向こう行ったかいがあった」
堤さんの新しい煙草に、新庄さんが火をつけた。
「戻って、こられるんですか」
ついそう訊いた私を、新庄さんが驚いたように見る。