オフィス・ラブ #3
「前回の実施時、ネットワークバナーと同時期だったでしょ、その効果じゃない?」
「そう思いますよね。ですがほら、地域別に見ると」
小出さんの前で、PCを操作して、データの軸を変える。
「分布が偏ってるの、わかりますか。この分布が、掲載した雑誌の発売地域と、重なるんです」
はあ、と小出さんが目を丸くして、ため息をついた。
小さな会議室の椅子の背にもたれて、うんうんとうなずきながら腕を組む。
「このシステム、本気で面白いね。これがなくて、どうやって今まで広告やってたんだって感じで」
「今まで無意味だったものも見えちゃうんで、両刃の剣でもあるんですけど」
「大塚さんたちにとっては、そっか」
ふたりで笑う。
ふと、小出さんが、思い出したように言った。
「先週提案していただいた情報誌の案件、あれ、実施を検討したいので、詳細相談させてください」
本当ですか、と思わず大きな声が出る。
「時期をずらしたいので、そのぶん内容も変えたくて。できますかね」
「もちろんです。ご希望の実施時期があれば、その内容に修正してお持ちします」
「あと、期末に向けて、何本か追加したいので、そのご相談も。今週中に、一度時間決めて打ち合わせできませんか?」
もはやぽかんとしはじめた私に、分厚い黒革の手帳を開いた小出さんが、意味ありげに笑いかける。
クライアントのビルを出ると、ぴっと背筋が伸びるような、快い冷気に襲われた。
昼間の太陽が、優しく私を照らして、光に触れる部分だけが温かい。
足取りは、自然と弾むように軽かった。
新庄さん、新庄さん、風が。
変わりはじめました。