オフィス・ラブ #3
「でも、次長がいる限りは、戻ってもやりづらいですね」
「今度はもっと、俺もマシにやるさ」
「でも、向こうにその気がなかったら…」
「その場合は、もちろん」
出ていっていただく。
え。
不穏な口調に、思わず見あげた。
「これ以上くだらない邪魔をするようなら、どんな手を使ってでも、俺が追い出す」
しがらみには、しがらみで対抗だ。
煙草を噛んで、不遜に笑う彼に。
堤さんに似てきましたね、と言ったら。
なんともいえない、憂鬱そうな、心外そうな顔をされた。
本部長とOBの会合は、成功に終わったらしく。
正式なコメントはないものの、少しずつ、クライアントとのやりとりの中に、それが感じられはじめてきた。
私たちと同じく、このやりかたでは、双方が傷だらけになるだけだと知っていた、先方の宣伝部長たちが。
社内で、相当奔走してくれていたのも、功を奏した。
「『見直し』という表現に変わりました」
堤さんが全員に言う。
おおっ、と会議室が湧いた。
AOR制を、廃止でなく、見直す。
同じようで、これはだいぶ違う。
「来期の各メディアプランを、コンペ形式で他店と争う。そこで再度、指名代理店を決めなおすとのこと」
よし、と井口さんがうなずいた。
「そのやりかたなら、うちが負けるわけがない」
「僕も同感です。ついでなので」
新たに、新聞あたりも、もらってきましょうか。
不敵に笑って一同を見わたす堤さんに、全員の士気が、燃えあがるように高まるのを感じる。