オフィス・ラブ #3
新庄さん、私ね。
この間、思いっきり泣かせてもらった時。
やっと、わかったんです。
自分が、何を不安に思ってたか。
私は。
私なしでも、生きていけることに。
あなたが、気づいてしまうのが。
怖かった。
生活のほとんどを仕事が占めている、あなたの中で。
私の存在が、まったく意識にない時というのは、私たちがこうなるよりも、だいぶ前から。
きっと、ほとんどなかったでしょう。
私は、新庄さんの、初めての部下のひとりで。
唯一の、女で。
たぶん、はじめからちょっと、特殊な位置にいた。
私は、それを利用して、近づいたようなものだったから。
生真面目なあなたの責任感を、強引に別のものにすり替えさせたようなものだったから。
上司じゃ、なくなって。
会社も、変わって。
遠く、離れて。
その基盤が、リセットされたら。
積みあげたものも、一緒に吹き飛ぶんじゃないかって。
そう、思ったんです。
「涙腺、どうかしたんじゃないのか」
「私もそう思います…」
言うそばから、ぽろりとこぼれ落ちる。
まあ、こういう場なら、涙くらい、そんなに目立たないだろう。
へたに拭くとメイクが落ちるうえに、目が赤くなるので、もうこぼれるままにしておいた。