オフィス・ラブ #3
新庄さんが、少し困ったように言う。



「別に、特別なのじゃないぞ。虫よけていどで」

「いいです、それで」



うなずくと、グラスをテーブルに置いた新庄さんが、私の左手をとって、まじまじと見た。



「お前、指輪、しないんだな」

「前は、してたんです」



つい正直に言ったら、場が凍りついた。

秀二からもらったリングのことだったからだ。

新庄さんも当然、瞬時に理解したらしく、ひんやりと私をにらむ。



「よくそれで、俺を無神経とか言ったな…」



古い話、持ち出さないでほしい…。

抑えた声に、もはや謝ることもできない。


けれど新庄さんはそれ以上追及せずに、なぜだかじっと私の手に目を落としていた。


そういえば、青空の下で見る新庄さんなんて、いつぶりだろう。

いい男だなあ。

そんなことを考えていたら、目が合った。


新庄さんは、一瞬、視線をさまよわせると、ふいにぎゅっと私の手を強く握って。

柔らかく、微笑んだ。



「今まで、なんの約束もしなくて、悪かった」



にじむような、優しい声。

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