オフィス・ラブ #3
とられた腕に、ぽたりと涙が落ちる。

もう本格的に、私の涙腺はどうかしてきた。



「…なんの約束を、くれるんですか」

「さあ、何がいい」



首をかしげて、本気で訊いてくる。

えっ、なにそれ、私が決めるの。



「なんでもいいです」



新庄さんが、くれるなら。

そう伝えると、微笑んで。



「じゃあ、考えとく」



愛おしげに、指に、キスをくれる。

涙がまた、ひと粒、こぼれた。



会いたい、と。

少しでも、つながっていたいと。


そう、思っていてくれるのなら。

その証が、指輪なら。



私はもう少し、あなたを待てる。





薬指に、新庄さんの唇の熱が、残っていた。





新庄さんが、垣根の向こうを気にするそぶりを見せた。

無理もない、参列者の中には、会社関係者がごろごろいる。


その気持ちはわかるけど。

今日くらいは、いいじゃない。

そそのかすように、手を握り返すと、新庄さんは小さく笑って。


つないだ手で、私を引き寄せると。

頭上に広がる空にふさわしい、フランクで親しげなキスをくれた。

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