オフィス・ラブ #3

「誰が来るか、わかんないんだからさあ」



突然聞こえた声に、飛びあがるほど驚く。

はっと振り向くと、にやにやと、堤さんがスペースに入ってくるところだった。

心臓が口から飛び出そうで、顔を赤らめる余裕もない。



「悪趣味な奴め」



同じく相当驚いただろうに、相手が相手だったせいか、新庄さんのほうが立ち直りが早かった。

舌打ちをしながら、堤さんをにらむ。


手をつないだままなことに気がついて、慌てて放そうとすると、なぜかぐっと握られた。

えっ。



「こっちの台詞。すぐそこに、6部の奴らがいるっていうのに」

「なかなか会えないんだ。こういう機会を利用させてもらったって、いいだろ」



余裕の表情で煙草をくゆらせながら、片手はがっちり私の手をつかんで、放さない。

もう、意地になっているんだろう。


堤さんが、その手に目をやって、くすっと笑ったのがわかった。


さすがに顔が熱くなるのを感じて、空いてる手で引きはがそうとするけど、頑として放してくれない。


ちょっと。

あなたは、つまんない意地で済むかもしれないけど。

現上司の前で、旧上司と手をつないでる、私の身にもなってよ。


堤さんが、胸ポケットから煙草を取り出すと、くわえながら訊く。



「20%公約、結んだって? 強気だね」

「まあな」

「結局、いつ戻ってくる気」

「一年で、切りあげる」

「えっ」



思わず、正直な驚きの声が出た。

< 124 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop