オフィス・ラブ #3
「誰が来るか、わかんないんだからさあ」
突然聞こえた声に、飛びあがるほど驚く。
はっと振り向くと、にやにやと、堤さんがスペースに入ってくるところだった。
心臓が口から飛び出そうで、顔を赤らめる余裕もない。
「悪趣味な奴め」
同じく相当驚いただろうに、相手が相手だったせいか、新庄さんのほうが立ち直りが早かった。
舌打ちをしながら、堤さんをにらむ。
手をつないだままなことに気がついて、慌てて放そうとすると、なぜかぐっと握られた。
えっ。
「こっちの台詞。すぐそこに、6部の奴らがいるっていうのに」
「なかなか会えないんだ。こういう機会を利用させてもらったって、いいだろ」
余裕の表情で煙草をくゆらせながら、片手はがっちり私の手をつかんで、放さない。
もう、意地になっているんだろう。
堤さんが、その手に目をやって、くすっと笑ったのがわかった。
さすがに顔が熱くなるのを感じて、空いてる手で引きはがそうとするけど、頑として放してくれない。
ちょっと。
あなたは、つまんない意地で済むかもしれないけど。
現上司の前で、旧上司と手をつないでる、私の身にもなってよ。
堤さんが、胸ポケットから煙草を取り出すと、くわえながら訊く。
「20%公約、結んだって? 強気だね」
「まあな」
「結局、いつ戻ってくる気」
「一年で、切りあげる」
「えっ」
思わず、正直な驚きの声が出た。