オフィス・ラブ #3

「で?」

「いや、あの頃、借りもあったし。部署と名前と、まあ、俺なりの印象を」

「どんな」

「…かなり気が強くて、口も悪いけど、友達思いとか、実はお嬢様とか、そんなようなことだと思う」



的確だな。

それが、まんまと堤さんに刺さったのか。

そう思って新庄さんを見ると、心底悔いているような声で、うなずいた。



「あいつ、生意気、大好物だから…」








「すまん、って謝られたよ」

「それはさすがに、堤さんに失礼では…」



言葉に困っている三ツ谷くんの隣で、ひーひーとお腹を抱えて彩が笑う。

私はイタリアンカフェのテーブルをばんと叩いて、それをとめさせた。



「元はといえば、あんたたちが隠してたせいなんだからね」

「だって、そのほうが絶対面白いって、決めたんだもん」



涙を浮かべて彩が言う。

気の毒に新庄さんは、ふたりに引っかけられているのではとまで疑う始末だった。

でも、それを責めることはできない。

こうして彩に会うまでは、私もその可能性を捨てられなかった。



「それでも上期中にはと思ってたんだけど、その頃ほら、ちょうど新庄さんの」



出向騒ぎが持ちあがったわけか。

確かにあの頃の私は、とてもそんな話を持ち出せる状態じゃなかっただろう。

堤さんもきっと、私たちが片づいたのを、見計らってくれたんだ。



「よかったね。一年で、帰ってくるんでしょ」

「20%公約の話、マーケでも持ちきりみたいですよ。今後、同じようなことがあった場合の、いい前例になると」



かっこいいなあ、と三ツ谷くんが紅茶を飲みながら言う。

まあ、その公約のおかげで、出向中は以前にも増して激務になるわけなんだけど。


でも、いい。

寂しければ、電話するし。

会いたかったら、会いに行くから。



「おめでと、彩」



心からそう言うと、色白の頬をぱっと染めて、幸せそうに、ありがと、と微笑んだ。



< 129 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop