オフィス・ラブ #3
「で?」
「いや、あの頃、借りもあったし。部署と名前と、まあ、俺なりの印象を」
「どんな」
「…かなり気が強くて、口も悪いけど、友達思いとか、実はお嬢様とか、そんなようなことだと思う」
的確だな。
それが、まんまと堤さんに刺さったのか。
そう思って新庄さんを見ると、心底悔いているような声で、うなずいた。
「あいつ、生意気、大好物だから…」
「すまん、って謝られたよ」
「それはさすがに、堤さんに失礼では…」
言葉に困っている三ツ谷くんの隣で、ひーひーとお腹を抱えて彩が笑う。
私はイタリアンカフェのテーブルをばんと叩いて、それをとめさせた。
「元はといえば、あんたたちが隠してたせいなんだからね」
「だって、そのほうが絶対面白いって、決めたんだもん」
涙を浮かべて彩が言う。
気の毒に新庄さんは、ふたりに引っかけられているのではとまで疑う始末だった。
でも、それを責めることはできない。
こうして彩に会うまでは、私もその可能性を捨てられなかった。
「それでも上期中にはと思ってたんだけど、その頃ほら、ちょうど新庄さんの」
出向騒ぎが持ちあがったわけか。
確かにあの頃の私は、とてもそんな話を持ち出せる状態じゃなかっただろう。
堤さんもきっと、私たちが片づいたのを、見計らってくれたんだ。
「よかったね。一年で、帰ってくるんでしょ」
「20%公約の話、マーケでも持ちきりみたいですよ。今後、同じようなことがあった場合の、いい前例になると」
かっこいいなあ、と三ツ谷くんが紅茶を飲みながら言う。
まあ、その公約のおかげで、出向中は以前にも増して激務になるわけなんだけど。
でも、いい。
寂しければ、電話するし。
会いたかったら、会いに行くから。
「おめでと、彩」
心からそう言うと、色白の頬をぱっと染めて、幸せそうに、ありがと、と微笑んだ。