オフィス・ラブ #3
「あった!」
ベッドの隅の、壁の幅木に乗っていた。
小さな金属を、新庄さんに見せる。
「床を掃除しても、見つからないわけだ」
「シーツ替えた時にでも、落としたんでしょうか…」
壁から離したベッドに、四つん這いになって隙間をのぞいていた私は、その場に座ってキャッチをつけかえた。
イベントごとに、向いてないのかもな、俺たち。
新庄さんが電話でそう言ったのは、お互い休むどころじゃなかった、クリスマスシーズンの頃。
なんとかクリスマス前に指輪を一緒に見ようとしたんだけれど、無理で。
やっと会えたのが、この大晦日。
でももう、どのお店も閉まっている。
結局、予定は年明けに持ち越されることになり、ほんと、向いてないのかも、とため息が出た。
「実家、帰らなくて平気か?」
「改築してるらしくて、ちょうどいいと言われました」
それならいい、と新庄さんが安心したように笑う。
「私の部屋、母の書斎にするんですって」
「そりゃ、寂しいな」
ベッドに腰をかけた新庄さんが、煙草に火をつけた。
確かに寂しいけれど、まあ、仕方ない。
もう実家で暮らすことはないだろうし、だったらスペースを有効に使ったほうが、誰にとってもいい。
新庄さんが、枕元に置きっぱなしだったカタログに手を伸ばした。
私がお土産として持ってきた、つい先日発売になった、あのスポーツチューンのカタログだ。