オフィス・ラブ #3
渡すなり、でかした、と食いついて、時間さえあれば眺めている。



「この大人げない車を、あえてほぼノーマルで乗るのが、かっこいいと思うんです」

「大人げない…」



のぞきこみながら言うと、煙草をくわえた新庄さんが、渋い声を出した。



「新庄さんらしいですよ」



大人げないくらい、ストイックで、野心的で、どこまでもかっこいい。

そう言ったつもりだったんだけど、伝わらなかったらしく、どういう意味だ、とにらまれた。



「でも、ダンパーキットは外せないですね」

「さらに大人げないじゃないか」



こだわるなあ、とあきれていると、新庄さんがふと腕時計を見て、あ、と声を上げた。

文字盤を見て、私も、あ、と声が出る。



年が、変わった。

こんな、カタログを眺めているうちに。


少し呆然として、目を見あわせる。



「何か、すればよかったでしょうか」

「何かって、なんだ」

「カウントダウンとか…」



せめて、テレビでもつけてるとか。

そう言うと、新庄さんが笑った。



「もっと、色っぽい話かと思った」

「色っぽい?」



訊き返す間に、顔が寄せられて、キスをされる。

新年の挨拶なら、一瞬で終わるかなと思っていたら、予想外に本格的で。

ベッドに座りこんで、目も閉じずにそれを受けていた私は、慌てて自分も身を寄せた。


それに小さく笑った新庄さんが、一度離れると、煙草を灰皿で消して、カタログをぽんと床に置く。



「今年の抱負を、大塚」


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