オフィス・ラブ #3

「ほ、抱負ですか」



新庄さんが、急に事務的な声を出すので、慌てた。

これって、毎年の仕事初めの流れじゃないか。

色っぽいのはどこ行ったの、と思いながら、頭を悩ませる。



「担当媒体の利益を、5%アップします」

「業務の話なんか聞いてない」



馬鹿、となぜか怒られて、あせった。

じゃあ、プライベートの話か。

えーと、えーと。



「ジムに通おうと思います」

「ほう」

「…あと、貯蓄をしようかと」



いい心がけだ、と脚を組んだ新庄さんがうなずく。



「着物を、自分で着られるようになりたいんですよね」

「頑張れ」



だんだん私も本気になってきた。

腕を組んで、去年やり残したことを一生懸命考える。

部屋のカーテンに見飽きたから、シェードに仕立て直そうかと思ってたんだ。

あと、圧力鍋がほしい。


でもこれって、抱負かな。



「新庄さんは?」



私ばっかり言わされて不公平と思い、尋ねてみると。

自分で振っておきながら、腿にほおづえをついて、今さら考えはじめた。



「年内に、本社に戻る」

「仕事の話じゃないですか」

「じゃあ、こっちの道を、把握する」

「あっ、指輪見る時、神戸に行きたいです」



思いつきで発言したら、人の抱負に割りこむな、とまた怒られた。

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