オフィス・ラブ #3
おとなしく抱かせてくれた新庄さんは、少し笑ったようで。

私の背中に片腕を回して、抱きしめてくれた。


ひざ立ちしているせいで、私のほうが少し高い位置にいるキスは、新鮮で。

新庄さんの顔を、あおむけて。

好きなだけ、気持ちを伝えてみる。



頑張りましょうね、この一年。

伝えあって、拾いあって。

うまくいけば、お互い、スキルアップの年になるかも。


そう言ったら、スキルアップか、とキスの最中に新庄さんが吹き出して。

それが楽しくて、笑いながらベッドに倒れこんで、何度も口づけた。



あーあ。

あとちょっと早く、これを始めてたら。

2年越しで、くっついていられたのにね。



ほんと、向いてない、私たち。








「横浜と、空気が似てますね」

「港町だからかな」



一度来てみたかった憧れの街を、ウインドウ越しに眺める。

久しぶりの、新庄さんの車での遠出。


遠く離れたこの地で、なじみのある雰囲気を、少し感じた。

開放的なようで、反面、どこか閉鎖的な。

人が行き交い、出会って、別れるための場所。



「やっぱり、手放すの寂しいですね」

「でも、走行距離もそこそこいってるし」



そう言いながら、新庄さんも、この車と離れがたそうだ。

そう指摘すると、苦笑して。



「まあ、いつか風が吹くだろ」



薄く開けた窓に煙を吐きながら、そう言った。



そうだ、そういうのって、確かに。

ある時、ふと吹かれるものだ。

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