オフィス・ラブ #3
「約束、考えてくれました?」
水辺を、木の床を鈍く鳴らして歩く。
つないでいないほうの手にちらりと輝く、選んだばかりの指輪を眺めながら、訊いてみた。
初売りを避けて、ようやく買いに出た今日は、ふたりで過ごす年始の、最後の日。
またしても、自分で選べと言いながらいちいちうるさい新庄さんが。
ようやく承認してくれたのは、プラチナに数粒のダイヤが埋まった、Vラインの綺麗なリングで。
はからずも、ピアスとおそろいの素材になった。
結局プラチナが好きなのかと思ったら、別にそんなことはないらしく。
お前の肌に合うから。
と、妙に恥ずかしいことを、平然と言われた。
彼なりに、意外な基準を持っていたようだ。
考えた、とうなずきながら、新庄さんがきょろきょろと、煙草を吸える場所を探す。
なんか適当な感じだなあ、と思いながらも、何を約束してくれるんですか、と訊いてみた。
「ちゃんと、一緒にいてやるよってこと」
あった、と喫煙所に向かって方向を変えた新庄さんに、引きずられる。
ちょっと待って。
いいこと聞いた気がするのに、なんかムードがない。
シックなあずまやのような喫煙所で、カチッとライターの音をさせて、煙草に火をつける。
吹きこむ風から、火種を手で覆って守りながら。
そのために、つないでいた手はあっさり放された。
火のついた煙草をくわえると、寒いんだろう、両手をダウンのポケットに突っこんで、テーブル型の吸煙器に背中を預ける。
私は隣に立って、その顔をのぞきこんだ。
「どういう意味ですか」
「言葉どおりだ」
「大阪なのに、どうやって」
「その間はまあ、仕方ないから、気持ちだけ」
なんだそりゃ。
私も寒いので、両腕を胸の前で組んだ。