オフィス・ラブ #3
「新ルールは、なかなか偉大です」
安心したというより、自分の愚かさにどっと疲れて、吸煙器に寄りかかると。
スタンドタイプの灰皿の上で煙草を叩きながら、新庄さんがあきれたように言った。
「お前の抱負は、俺をもう少し信用することだな」
「してなかったわけじゃ、ありません」
思わず、すねた声になる。
そう、信じてなかったわけじゃない。
ちょっと、不安だったせいで。
何かあると、すぐ揺らいで。
つかまるところが、どこにもないような気になっていただけだ。
なくしたと思っていたものは、あった。
全部、すぐそばに。
そもそも、なくしてすら、いなかったのかもしれない。
少し、心細さに目が曇って。
見えなくなっていただけで。
柱の間から、冷たそうな新年の海を眺めて。
でもなあ、と新庄さんがぽつりと言う。
「なんですか」
「いや、いずれそうなったらさ」
呼びかた、いい加減なんとかしないと、変だよな。
どこかのんきに、そう言って。
白い息と一緒に、煙を吐く。
思わず笑うと。
新庄さんも、楽しそうに微笑んで。
私の左手に、指をからめて。
戯れるような、キスをくれた。