オフィス・ラブ #3
6本目も空いた。

さすがに明日の主役が心配になる私たちに、平気平気、と笑う堤さんと彩の声が重なる。

確かにこれは、非経済的だ。

けれど、先日のコンペまで、決戦前の緊張が続いた中、選考待ちの今は、堤さんにとって、ちょうど小休止というところだろう。

私も準備に追われ、新庄さんに会うのは、実に年始以来だった。



「ウイスキー、あったよね」



彩がテーブルを立って、バースペースに向かった。

新庄さんも飲みたくなったようで、煙草を灰皿に置いて立ち上がる。



「和之も?」



追ってきた新庄さんに、彩がそう振り向いた。

新庄さんがぎょっと足をとめて、絶句する。


彩は、あ、と少し驚いた顔をして。



「ごめんなさい」



間違えちゃった、と言いながらカウンターの棚を開けた。


新庄さんは、なんともいえない複雑な表情で、助けを求めるように私を見て。

私の目の前では、煙草をくわえた堤さんが、声もなく笑っていた。



「えーっ、まだそのままなの」



目を丸くする彩に、俺は想像ついてた、と堤さんがにやにや笑う。



「最中に、職場みたいに呼ばれたら、盛りさがらない?」

「むしろ、それがいいんじゃない、背徳的で」



ムッツリだから、と新庄さんを煙草で指す堤さんに、なるほど、と彩が真剣にうなずく。


納得しないでよ…。

本人の前でそういう話題になると、私もさすがにいづらく、ワイングラスに目を落とす。

同じく居心地悪そうにしていた新庄さんはもう、ひじをついた手に額をあてて、完全に脱力していた。



「まあそれは、完全に新庄の責任だな」

「なんで?」



彩が訊くと、堤さんが、ふっと煙を吐いて言う。



「新庄に苗字で呼ばれてる限り、大塚さんからラフに呼ぶなんて、できっこないだろ」



彩と一緒に私まで、そうか、と納得した。

言われてみれば、そうだ。



「俺を見るな」



つい隣を見たら、低い声で咎められた。

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