オフィス・ラブ #3
「ね、プロポーズって、どんなのだった」
どうしても気になって、彩にそう訊くと。
えっ、と新庄さんが嫌そうな声を上げた。
「そこ、行くなよ…」
「だって、気になるでしょう」
微妙だ、と新庄さんがつぶやく。
まあ、その気持ちもわかる。
彩は、ええと、と迷って、言っていい? と堤さんを見た。
「いいよ」
こだわりなく、堤さんがうなずく。
あのねえ、と彩が眉を寄せた。
「『俺と結婚しないメリットがない』って言われた」
営業文句じゃねえか、と新庄さんが、あきれたように言う。
「似たようなもんだろ」
「でも、考えてみると、実際ないなと思って」
「それで、OKしたの?」
即答だったね、とワインを飲む堤さんに、彩がうなずいた。
「早すぎるとか、思わなかった?」
「遅けりゃいいってもんでも、ないし」
言いながら、ごくごくと水割りを干す彩に、だよねー、と堤さんが同意して。
私と新庄さんは、確かになあ、と変に感心してしまった。
そんなもんなのかあ。
「もっと、ロマンチックなほうがいい?」
「はあ、でも、うーん…どうでしょう」
「相手がこいつじゃなあ」
「お前に言われたくない」
「新庄さん、やればできそうだけど」
彩の鋭いコメントに、グラスに口をつけたまま目を泳がせた新庄さんを、堤さんは腹痛い、と笑い。
テーブルの下で、その脚をガンと新庄さんが蹴ったのに、私は気がついた。