オフィス・ラブ #3

「いまだに、信じられない」



アイボリーの壁と、つやのある木の建具が歴史を感じさせる私たちの部屋に戻ると、クイーンサイズのベッドにどさりと腰を下ろして、新庄さんがため息をついた。

仕事から直行してきたので、まだワイシャツにスラックス姿だ。



「6部の奴らも、普通に受けとめてるのか」

「両方を知ってるのは、私たちくらいですからね」



実際、部内で堤さんの結婚が公になった時、みんなからは祝福の声しか聞かれなかった。

仕事上、彩を知っているのは課長と林田さんくらいだし、そのふたりにしても、へー社内で見つけたんだ、くらいの驚きしかなく。

この、えもいわれぬ落ち着かなさを共有できるのは、私と新庄さんくらいのものだろう。



「新庄さん、靴」



土足のまま、あおむけに寝転がった新庄さんに、注意する。

新庄さんは、だらしなく、横になったまま革靴を蹴るように脱いでベッドの外に落とした。

もう。

その靴をそろえて、彼の横に腰かける。



「大阪のベッド、替えないんですか」

「人事に、あれがいると思うとなあ…」



かけあう気がしない、と組んだ腕を頭の下に敷いて、天井を見あげた。

確かに、ピアスを発見されておいて、このうえベッドを大きくしたいなんて、なかなか言えない。


新庄さんは、ごろんと横向きになって、そのついでに私の腰に腕をかけて、倒した。



「私は、あの狭いのも、好きですよ」

「そりゃ壁側なら、いいだろうよ」



文句を言いながら、ゆっくりと口づけてくる。

仕事して、移動して、あれだけ飲んだせいで、さすがに少し疲れている様子だ。


新庄さんは身体を入れ替えると、私を下に敷いた。

私の脚を引き寄せて、パンプスのストラップを器用に外し、脱がせてくれる。

どこで覚えたんだかなあ、と何度目かになる思いを抱いた。

< 143 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop