オフィス・ラブ #3
「いまだに、信じられない」
アイボリーの壁と、つやのある木の建具が歴史を感じさせる私たちの部屋に戻ると、クイーンサイズのベッドにどさりと腰を下ろして、新庄さんがため息をついた。
仕事から直行してきたので、まだワイシャツにスラックス姿だ。
「6部の奴らも、普通に受けとめてるのか」
「両方を知ってるのは、私たちくらいですからね」
実際、部内で堤さんの結婚が公になった時、みんなからは祝福の声しか聞かれなかった。
仕事上、彩を知っているのは課長と林田さんくらいだし、そのふたりにしても、へー社内で見つけたんだ、くらいの驚きしかなく。
この、えもいわれぬ落ち着かなさを共有できるのは、私と新庄さんくらいのものだろう。
「新庄さん、靴」
土足のまま、あおむけに寝転がった新庄さんに、注意する。
新庄さんは、だらしなく、横になったまま革靴を蹴るように脱いでベッドの外に落とした。
もう。
その靴をそろえて、彼の横に腰かける。
「大阪のベッド、替えないんですか」
「人事に、あれがいると思うとなあ…」
かけあう気がしない、と組んだ腕を頭の下に敷いて、天井を見あげた。
確かに、ピアスを発見されておいて、このうえベッドを大きくしたいなんて、なかなか言えない。
新庄さんは、ごろんと横向きになって、そのついでに私の腰に腕をかけて、倒した。
「私は、あの狭いのも、好きですよ」
「そりゃ壁側なら、いいだろうよ」
文句を言いながら、ゆっくりと口づけてくる。
仕事して、移動して、あれだけ飲んだせいで、さすがに少し疲れている様子だ。
新庄さんは身体を入れ替えると、私を下に敷いた。
私の脚を引き寄せて、パンプスのストラップを器用に外し、脱がせてくれる。
どこで覚えたんだかなあ、と何度目かになる思いを抱いた。