オフィス・ラブ #3
「大塚さん、サポートの人が来たよ」
「今行きます」
窓際のテーブルで校正をしていた私を、堤さんが呼ぶ。
返事をして、校正用紙をどうしようか少し迷い、そのままにしてデスクのほうへ向かうと。
そこに立っていたのは、あまりに見慣れた姿だった。
「新庄さん!」
思わず、素っ頓狂な声が出る。
その後ろで、堤さんがにやにやと笑っているのに気づいて、顔が熱くなった。
何が「サポートの人」だ、くそ。
フロアにいた数名の部員が、チーフ、と懐かしげに声をかけるのに、新庄さんが、おう、と挨拶を返す。
このフロアにこの姿があるのは、懐かしくもあるけれど。
今となってみると、違和感のほうが勝る。
「どうして、新庄さんが」
「お前らが呼んだんだろ」
あきれ声で言われた。
だって、そんなつもりじゃなかった。
こんなところまで、新庄さんの仕事だなんて、思わなかったのだ。
まだ衝撃から抜けきらない私を、さっさと立ちあげろ、と椅子に座らせて、新庄さんがその横に立った。
反対側の、空いた高木さんの椅子には、堤さんが反対向きにまたがって、面白そうにこちらを見る。
「症状によってはエンジニアをよこすんだが、向こうは多忙だから」
取り急ぎ、俺が聞いてく。
そう言って、私のデスクに手をついて、画面をのぞきこむ。
目の前にあるワイシャツの腕から、かぎなれた煙草と香水がかすかに香って、やりにくいこと、この上なかった。