オフィス・ラブ #3
問題の階層まで進ませて、ここです、と指し示す。

データをドロップしても、なんの反応もないのだ。

ちょっと貸せ、と新庄さんが私の手からマウスを取りあげる。


私は、ついのんびりとほおづえをついて、その姿を眺めた。


新庄さんが、このフロアにいた頃。

一緒に仕事をしていた頃。

毎日、オフィスで声を聞いていた頃。


そんな時があったなんて、なんだかもう、信じられない。



「あれ?」



いくらも操作しないうちに、新庄さんが、画面を見ながら声を上げた。



「お前、PC替えたか」

「はい、先週」



実は、生まれて初めて、PCをクラッシュさせるという悲しい事態に陥ったのだ。

といっても、私が何かしたわけではなく。

ある日起動させたら、ブツンという音とともに画面が消え、沈黙したってだけなんだけど。

サルベージも不可能なほど、完全に壊れていて。

ローカルに大事なデータはほとんど置いていないとはいえ、ショックだった。



「ちょうどいい代替機がなくて、AISの試験機を借りてるんだよ」



背もたれの上に腕を組んで、堤さんがのんびりと口を挟む。

AISとは、インフラ専門の関連会社のことで、来週には、私の新しいPCが届く予定になっていた。


新庄さんは身体を起こすと、ため息をつきながら言った。



「それだ。このOSには、まだ対応していない」

「そうなんですか」



そんな根本的な問題だったのか。

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