オフィス・ラブ #3

「ほしいものを聞くのはね、最短距離なようでいて、ただの手抜き」



そうなのか、とまた目で訊かれ、どう答えたものか迷う。

堤さん、いいこと言う、と彩が隣の肩を叩いて笑った。



「訊くより読んでほしいんですよね。考えて、あげたいものを決めてほしいの」

「だろ。わかってないよね、この男」

「わかってない!」



盛りあがるふたりを前に、なんで俺、来たんだろう、と新庄さんがつぶやくのが聞こえる。

なんだか、私がすべての元凶な気がして、申し訳なくなってきた。


まったく喋らないせいか、私たちより早く食べ終えた新庄さんが、ワイシャツの胸ポケットに指を入れかけて、彩を見る。



「あ、どうぞ」



彩がすぐ気づいて、灰皿を新庄さんの前に押しやった。

失礼、と断って新庄さんが、煙草に火をつける。


珍しいな。

彩は、仕事中に煙草の臭いが服や髪につくのを嫌って。

飲み会以外では、相手が目上だろうがなんだろうが、自分の前では吸うなときっぱり言うのに。

今日の新庄さんに、さすがに同情したんだろうか。


じゃ俺も、と堤さんも煙草を取り出す。

彩はそれにも、何も言わなかった。



午後から外出の予定があった私は、店の前で3人と別れなければならなくて。

裏切り者、という視線を送ってくる新庄さんに、仕方ないじゃん…と心の中で言い訳をする。


会社へと戻っていく彩たちを振り返ると、彼らは新庄さんを真ん中にして。

「で、何あげたいの」「どういうつもりであのピアス選んだんですか」と楽しそうにまとわりつき。


それを頑なに無視して歩く新庄さんの背中に、私はまた心の中で手を合わせた。



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