オフィス・ラブ #3
Tシャツにデニム姿の新庄さんが、ルーフから水をかける。

私はなるべく傷をつけないように、シャンプーをつけたスポンジで、なでる。



「黒は、気を使いますね」

「そんなに神経質にならなくていい。傷なんて、どうせつくんだし」



でも、洗車傷はやっぱり避けたい。

そろりそろりと洗っていると、ちんたらするな、とまた水をかけられた。

声を上げる私を見て笑った新庄さんが、濡れて首に張りついた髪に手を差し入れて、キスをくれようとする。



「痛っ」

「あ、悪い」



指が、大振りのフープのピアスに引っかかった。

今日はもう、これで二度目だ。

暑くなってくるとつけたくなるこのデザインは、自分でもよく指を引っかける。



「邪魔だな」



これ、と新庄さんがつぶやいて。

え? と聞き返す間もなく、耳たぶに噛みつかれた。


思わず、首をすくめてから、気づく。

噛まれてるわけじゃない。



顔を離した新庄さんの口には、私のピアスがくわえられていて。

私の手をとって、フッとそこにピアスを吐き出すと、新庄さんは、にやりと笑った。


私が、真っ赤になりつつ、何を考えているのが、わかったんだろう。


開いた口がふさがらない。

あきれた!


だいぶ慣れたつもりでいたのに。

この男、まだこんな技を隠し持っていたのか。

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