オフィス・ラブ #3


「うーん…」

「まだ、納得できないのか」



デスクに向かってPCを叩いていた新庄さんが、あきれたようにこちらを振り返る。

私はベッドの上で、寝転がって車のカタログを広げていた。



「買うならMTですよね?」

「だな。パドルシフトも気になるけど」

「2ペダルは、嫌です」



なんで、と言いながら椅子から立ちあがった新庄さんが、私のそばに腰をかける。

スプリングが沈んで、私は彼のほうに少し傾くはめになった。


くわえたまま移動した煙草の煙が、ふわりと私を包む。



「クラッチペダルを踏む脚の動きが、好きなんです」



セクシーで。

そう言うと、立てた私のひざに軽く口づけていた新庄さんが、吹き出した。



「マニアックだな」



今どきマニュアル車を乗りついでいる人に言われたくない。

そう思ったけれど言わずに、ヘッドボードに置いてあるリモコンで、冷房を少し弱める。


寒いか? と訊いてくるのに、夏は少し汗ばむくらいが好きです、と答えると。


そんな自然志向だったっけ、とまた彼は笑って。

リモコンに手をのばしたせいで露出した私の脇腹に、優しくキスをくれた。

< 3 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop