オフィス・ラブ #3
「うーん…」
「まだ、納得できないのか」
デスクに向かってPCを叩いていた新庄さんが、あきれたようにこちらを振り返る。
私はベッドの上で、寝転がって車のカタログを広げていた。
「買うならMTですよね?」
「だな。パドルシフトも気になるけど」
「2ペダルは、嫌です」
なんで、と言いながら椅子から立ちあがった新庄さんが、私のそばに腰をかける。
スプリングが沈んで、私は彼のほうに少し傾くはめになった。
くわえたまま移動した煙草の煙が、ふわりと私を包む。
「クラッチペダルを踏む脚の動きが、好きなんです」
セクシーで。
そう言うと、立てた私のひざに軽く口づけていた新庄さんが、吹き出した。
「マニアックだな」
今どきマニュアル車を乗りついでいる人に言われたくない。
そう思ったけれど言わずに、ヘッドボードに置いてあるリモコンで、冷房を少し弱める。
寒いか? と訊いてくるのに、夏は少し汗ばむくらいが好きです、と答えると。
そんな自然志向だったっけ、とまた彼は笑って。
リモコンに手をのばしたせいで露出した私の脇腹に、優しくキスをくれた。