オフィス・ラブ #3
こうなってみてわかったけれど。

意外なことに新庄さんは、スキンシップが好きだ。


特にそういう目的でなくても、ことあるごとに触れてくる。



「脚が好きですね」



身体の中でも特に手を伸ばされる頻度が高い気がするので、ある時そう訊いてみると、首をひねりつつ、そんなことないと思う、と不思議そうに言った。



「けど、お前のは、好きかな」



綺麗で。

そう微笑んで、愛おしげになでてくれる。



いったい誰が、この人を冷たいなんて言ったのか。

こんなに惜しみなく、まっすぐな愛を注いでくれる人なんて、そういない。


それとも、私にだけ、なんだろうか。


私は、ちょっとくらいなら、自信を持ってもいいんだろうか。

最近少し、そう思うようになった。



少し温度の上がった部屋で、もう汗ばんできた身体にすり寄る。

引きしまったウエストに抱きつくと、強い煙草の匂いの下から、新庄さんの匂いがした。


別に自然志向なわけじゃない。

肌がひんやりしているうちは、この匂いを感じられないから。



真夏の強烈な西日が、レースのカーテンを突き抜けて部屋を刺す。

新庄さんが、私の手からカタログを取りあげた。

ヘッドボードの灰皿で、煙草を消す。



私はこの、始まりの瞬間を。

何度経験しても、いまだにドキドキする。

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