オフィス・ラブ #3
横浜で夕食をとって、マンションの駐車場に着く。

少し車が冷えるのを待ってから降りた新庄さんが、エンジンフードを開けた。

グローブボックスから取り出した工具で、手慣れた様子で中をいじる。

一緒に降りた私は、少し離れたところで見ていた。


バッテリーターミナルを外している。

本当に、もう長く乗らないつもりなんだ。


外し終えると、たぶん、くせになっているんだろう、オイルゲージを引っぱりだして点検する。


簡単な作業はすぐに終わり、フードを静かに閉めると、新庄さんは少しの間、そのまま車に手を置いていた。

なんかもう、そのままキスでもするんじゃないかというくらいの雰囲気で。


私はなぜかどぎまぎして、先に部屋に上がっていようとさえ思った。


ふと、新庄さんがいつもの調子に戻って、行くか、と私を見る。

私は、とても大事なところを邪魔してしまったような、のぞき見してしまったような気分になった。





「あんまり、変わりませんね」



明日には引越しというのに、新庄さんの部屋は、一見どこも変化がない。

元から極端に物が少ないせいだろう。


これでも、必要なものは全部送った後なんだぜ、と新庄さんが笑う。

向こうのマンションは家具つきだというから、日用品と衣服くらいを持っていけば、生活できるはずだ。

よかった、この部屋は、この雰囲気のまま残されるんだ。



出向の話を聞いてから、3週間近くになるのに、私はまだ、実感を持てなくて。

どう送り出そう、とか、今後どうやって会おう、とか、そういうビジョンのまったくないままに、ここまで来てしまった。


新庄さんは、何も言わない。


出向の本当の理由とか。

今、何を考えているのかとか。


今後の、こととか。

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