オフィス・ラブ #3
もう、この男は。

全然、変わってない。


カップに向かって息をついたのがわかったのか、煙草をくわえた新庄さんが笑う。



「大塚、俺は」



言いながら、私の腕をとって、正面に立たせた。

手の中のコーヒーがこぼれそうになって、慌てて両手でカップをかばう。

新庄さんは、口から煙草を離すと、シンクの水に投げ入れて。

腕をつかんだまま、もう一度、俺は、と言った。



「お前が寂しがってるのが、嫌なんだよ」



困ったように、微笑んで。

私の手からカップをとりあげて、自分のぶんと一緒にカウンターに置くと。

優しく私の両手をとる。



「俺が寂しいのは、どうでもいい。だから考えたことがない」



わからないってのは、そういう意味だ。


そう言いながら、ふいに、身をかがめたので、キスを、されるかと思ったら。

新庄さんは、額を優しく合わせてきた。



「だけど、行かないって選択肢は、俺にはない」



伏せた新庄さんのまぶたを、見えないくらい間近に感じる。

だから、と静かな声が続けた。





「寂しかったら、俺に言え」





知らないところで寂しがられてるのが、一番、嫌だ。

ささやくように、そうつぶやく。

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