オフィス・ラブ #3
私は、好きでいることくらいしか、できないんだけど。

それでも、いいんだろうか。

それだけでも、意味があるだろうか。



新庄さんが、うつむく私の額に、そっとキスをくれた。

顔を上げると、柔らかく口づけてくれる。



手をつないで。


触れるだけの、ごく軽い。

だけど何よりも多くを伝えるキス。


震えるほど、この人を好きだと思った。





新庄さんは、泣きたくなるほど丁寧に、優しく、優しく抱いてくれた。


やめてほしい、こんなの。

これじゃ、嫌でも別れを意識してしまう。


確かめるように、記憶に刻みこんででもいるかのように、私の全身に触れる。


あ、そうか、と今ごろ気がついた。

この間急に、車を洗うと言い出したのは、きっとこれと同じだ。


車と同じレベルか、と思わないでもなかったけれど。

それはそれで、満足だった。


だって車と同じなら。

新庄さんの中で、相当上位に、私は、いるってことだ。



優しすぎる身体に、ひとりでに涙が出る。


いつもと違うこと、しないでほしいのに。

もっと普段どおりに、あっけらかんと愛してほしいのに。



泣き顔を記憶されたくなくて、見られないように、首にしがみついてばかりいたら。

動きづらい、といい加減怒られた。



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