オフィス・ラブ #3
定例会を、午後に変更する。
全員、調整のうえ、必ず出席するように。
そう通達があったのは、ある月曜の朝だった。
私は、媒体社との打ち合わせを夕方に変更しなければならず、急いでその連絡を入れた。
「何か、あったっぽいですね」
「先週、何度も課長たちがクライアントのとこ行ってたの、関係あるんだろうね」
メディアチームの面々と、そんなささやきを交わす。
課長と堤さん、両チームのチーフは、今日もクライアントを訪れていて、午前中は不在。
明らかに、不穏な空気だった。
「指名代理店制を、廃止する動きがある」
課長がそう言った時、会議室が、一瞬しんと静まり返った。
えっ、と井口さんが声を上げる。
「指名契約を、終了すると?」
課長の横に座っていた堤さんが、無言でうなずいた。
まさか、という声が、部員たちから上がる。
「指名代理店制」とは。
メディアごとに、担当の代理店を、あらかじめ決めておく制度のことだ。
たとえば現在、TVは私たちの代理店が指名されている。
これにより、他の代理店は、クライアントにTVの広告枠を売ることができない。
反対に、新聞とラジオは他店が指名されていて、これはうちが手を出すことができない。
スケールメリットを出したり、代理店間の不平等感をなくしたりするために採用される制度で。
単発の案件では例外もあるけれど、原則として、この約束は絶対だ。