オフィス・ラブ #3
営業にとって、取り扱い額が減ることに勝る恐怖はない。

動揺に包まれる会議室で、不安そうな会話が交わされる中、堤さんが、持っていたペンを、パンと音を立てて手帳に置いた。



「廃止は、来期からとのことです」



いささか、急ですが。


どんな場でも、楽しんでいるような調子を崩さない彼が、今回ばかりはその雰囲気を消している。



「今期末にある新商品のコンペが、転機になるでしょう」



そう言って場の面々を見わたすと、全員がうなずく。



「ブランド別になれば、代理店に問われるのは、よりいっそうの総合力。我々に、それがないとは、私は考えない」



柔らかくて、確信に満ちた声。

そこで一呼吸置くと、聞いたこともないような鋭い響きで言った。





「目標が変わっただけです。今後我々は、すべてのブランドを、全力で取りに行く」





それだけです。


口元にこそ、穏やかな笑みを浮かべているものの、その目に、いつもの遊びはない。



解散、と短く発せられた声に、全員がはっと我に返ったみたいだった。

堤さんはさっさと席を立って、会議室を出る。



激動の下半期が、始まる予感がした。



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