オフィス・ラブ #3

AOR制をやめる? と彩が目を見開く。



「大口の広告主にしては珍しいね」

「結局は、考えかた次第だからね」



昨日は、メディアごとに方針を話し合ったり、両チームでコンペの方向性を確認したりに費やされた。


堤さんの言葉の不思議な魔力で、誰もが動揺から立ち直り、今後に向けて高い士気で取り組みはじめている。

私もその波に乗りはしたものの、フロアの緊張感に耐えきれず、昼休みに入るなり、彩を誘って出てきた。

山菜のお雑炊を口に運びながら、もう秋だなあと感じる。



「これまでも、ブランド担当店は、コンペで決めてたんでしょ?」

「そう。でも買いつけは指名代理店がやってた」



そこが、たぶん広告主の嫌がったところなのだ。

ブランドのPRを代理店Aに任せても、肝心のメディアの買いつけは代理店Bが行う。

それが起こりうるのが、これまでの仕組みだった。


AとBがどんなに密に行動したとしても、どうしてもそこには切れ目が生じる。

せっかく構築した広告のストーリーが途切れ、結果、PR全体が台無しになることだってあるのだ。


AOR制を廃止することで、その懸念は解消される。

多少の広告費を犠牲にしても、PRの一貫性をとった、ということだろう。



「担当ブランドが減ったら、痛いね」

「考えたくもない」



そんなことになったら、6部はどうなるんだろう。


逆に、これまで取り扱いの少なかった代理店は、今回の方針変更で、勝機が生まれたことになる。

どう考えても、最もシェアの大きかった私たちに痛手の多い変革だ。


形はどうあれ、取り扱い額はこれまでの水準をキープしなければならない。

それが、今の私たちの命題だった。



「とんでもないことになったね」



彩が息をついて、察してくれる。

そういえば高木さんも、同じ表現をしていた。



新庄さん。

とんでもないことになりました。


心の中で、話しかけてみる。

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