オフィス・ラブ #3
彼がチーフだったら、この事態をどう受けとめただろう。

おそらく、堤さんと同じ姿勢を示したに違いない。



取りに行くものが、変わっただけ。



堤さんが、すでに統括として立っていたのは、まぎれもないラッキーだった。

今後は、メディアチームと製品チームの連携が、これまで以上に大事になる。


今から風通し云々の部内改革をしていたのでは、とうていコンペに間に合わなかっただろう。


もしかしたら、新庄さんと、旧製品チーフの春日部さんは、クライアントのこうした動きに、感づいていたのかもしれない。

新庄さんの抜けた後、春日部さんが、それを堤さんに託したんじゃないだろうか。


自分って、つくづくのんきだったんだ、とため息が出た。



「恵利もけっこう影響大きい?」

「ううん、比較的少ない」

「そっか、とりあえずは、よかった」



私の担当する雑誌とイベントは、元からAOR制がとられていない。

なので、今回の変動が私の業務に直接及ぼす影響は、そこまで大きくない。


それでも、部署全体を包む緊迫した空気は、総毛立つほどに私をおびえさせた。



「期末のコンペ、通るといいね」

「やるだけやるしか、できないけどね」



なんだってそうだよ、と秋野菜の定食を気持ちよく平らげながら、彩が話題を変えた。



「新庄さんとは、連絡とってるの?」



とってないの。

正直に答えると、彩があきれたように、あーあと言った。



「そんなことだろうと思った」

「特に用事がないんだもん」

「まあ、まだ一週間だもんね」


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