オフィス・ラブ #3


「え…?」



ほんとに申し訳ない、とクライアントの雑誌担当者、小出さんが下を向く。

明後日からのイベントの最終打ち合わせを本間さんと行い、その足で小出さんのところに寄ったところだった。


下期後半に出稿できる、いい媒体があったので、提案に来たのだ。



「シェアを見直すということですか?」

「そう、今うちの雑誌は、ぶっちゃけると8割近くを大塚さんのところにお願いしているんだけど」



ほんとに、ぶっちゃけだ。

本来こういう割合は、代理店には知らされない。

公になってしまうと、誰もがやりづらくなるからだ。

でもまあ、8割というのは、想像していたのとほぼ同じ数字だった。



「若干、本末転倒なのはわかってるんだけど」



小さな会議室の椅子にかけた小出さんが、心底すまなそうに頭を下げる。

やめてください、と慌ててお願いした。



「今、うちは正直けっこう余裕があって。これまでつきあいのなかった雑誌にも、積極的に手を出す方針なんです」

「けど、弊社からのご提案は、お受けしていただけないと?」



そう…と小柄な小出さんが、ため息をついた。



「今、偏っている代理店さんのシェアを、なるべく均等にしたいという意図も、裏にはあって」



これ言ったこと、うちの上には言わないでね、と念を押される。

もちろん言わない。

たぶんこれ、相当極秘事項だ。



「今まで大塚さんにお願いしていた雑誌には、他店さんには手を出させないから」

「それは、ありがたいです」



でも、追加で出稿してくれることも、ないってことだ。

心臓が縮まる思いがした。

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