オフィス・ラブ #3
広告費は増えたのに、私たちの取り扱いぶんは増えない。

私たちのあずかり知らないところで、他店がシェアを伸ばしてくる。


このままいったら、いつか、シェアが逆転することも、ありえないとはいえない。



「今後も、ダメ元で、ご提案だけさせていただいてもいいですか?」

「はい、お受けできるかわかりませんが」



明るく了承してくれるのに、ほんの少し気が楽になるけれど。

いったい、何が起こってるんだろう。





「僕も言われた」

「やっぱり!」

「他店さんにお願いすることが増えると思いますって」



会社に戻ると、私は浮かない顔をしていたらしく、高木さんが、もしかして、と拾ってくれた。

あまり大きな声でできる話ではないので、ひそひそと椅子を寄せて話す。



「こういうことって、あるんですか…」

「僕の知る限りでは、ないよ。いくらなんでも、露骨すぎる」



これじゃ、誰も得しないよ。

そう言う高木さんに、同意する。


広告主と代理店は、もちろんビジネスだから、腹の探りあいこそするけれど。

大前提として、強い信頼関係で結ばれていなければならないのに。

そうでなきゃ、億単位の金を動かして、広告という形のあるようでないものを一緒につくりあげていくことなんて、できない。


今回のことは、いわば広告主に突然そっぽを向かれたようなものだ。



「何か、聞いたの」



ふいに声が間近から聞こえて、わっ、と高木さんとふたりで飛びのいた。

堤さんが、顔を寄せて話していた私たちに突然加わったのだ。

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