オフィス・ラブ #3
そうだ、と思いついてAORのことを話すと、やっぱりな、と新庄さんが言う。



『開発系統を整理したって聞いた時から、怪しいと思ってた』

「…それって、2年近く前ですよね」



そんな前から。



『それより前に、ブランドの統合整理があっただろ。あの頃から、可能性はあるなと感じてたんだが』



ちょっと、やりくちが急だな。

考えこむような声でそう言う。


ブランドの統合整理って、新庄さんがチーフになる前の話じゃないか。

そんな頃から、今回の動きを察知していた人が、他にいるだろうか。



「それだけじゃないんです。正式な打診があったわけではないんですが、代理店のシェアを…」


そこまで言ったところで、向こうがずっと無言なのに気がついた。

新庄さん? と呼びかけると、お前さ、と何か思案しているような声がする。





『一度、来られないか』





唐突な言葉に、思わず、え? と訊き返した。



『電話だと、大塚、仕事の話しかしなそうだから』

「………」



それは、新庄さんもじゃないか。

そう思って言い返すと、電話の向こうで軽い笑い声がする。



『元の立場って、引きずるもんだな』

「今週末はイベントなんです」

『なら、代休とるだろ』

「平日でも、いいんですか?」



うん、と答えがある。



『どうせ、休日もフルには休めないから、いつでもいい』

「じゃあ来週、代休とれた日に伺います」

『週末は、野外フェスか?』



懐かしいな、と言われて。

ああそうだ、と思い返す。


私が初めて、新庄さんと組んだ仕事だ。

あれから一年、たったんだ。





幸せな気持ちで、電話を切って。

明日からの出張準備をした。



< 58 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop