オフィス・ラブ #3
「過度の提案はそぎ落とす。けれど、価格競争には加わらない」
我々の強みは、ひとことで言えば、総合的な質の高さにある。
堤さんがそう言うと、全員がうなずく。
「けどそれが、ニーズを過剰に超えていては、及ばざるがごとし。その加減は、みなさん営業員にかかってます」
私たちは、大手であるがゆえ、できることが多い。
できることが多ければ、やりたくなるのが人間で。
つい、あれもこれもと手を広げてしまい、結果、広告主の希望をはるかに超えた規模になってしまうのだ。
今後は、意識してそこを最適化していく必要がある。
「決して、言われたことだけやればいいという意味ではない、それはわかりますね」
口に出されない、潜在的な要望を読み取ってこそ、営業。
堤さんの言いたいことは、それだろう。
「そこを一番うまく読めるのは、林田さんでしょう。今後の提案は、すべて林田チーフを通して、綿密なチェックを」
「了解」
林田さんがうなずくと、他のメンバーも口々に、了解しました、と言う。
イベントの後、突然の集合がかけられ、広告主の動きについて、堤さんから話された時。
やはりチーム全体がショックを受け、そこまでするか、という、広告主への不信にもつながりかねない空気が流れた。
それを堤さんが、大きな話は、課長と自分に任せてほしい、現場でどうするかを、全員で話したい、とまとめたのだ。
みんなが自分の部屋へと上がっていく中、堤さんがスーツケースを持って降りてきていたことに気がついた。
「泊まられないんですか?」
「CFの編集が、難航してるらしくて。今晩中に合流することにした」
宿泊キャンセルできないタイミングで、ごめんね、と謝ってくれながら、ロビーを出ていく。
そのあっさりした多忙さに、ありし日の新庄さんを思い出した。