オフィス・ラブ #3
私の到着が11時を過ぎることはわかっていたので、お互い夕食は済ませた後だった。

1DKのそのマンションは、駅から歩いて数分で。

コンビニなどの店舗が途切れて、静かな住宅街に入ってすぐのところにあった。



「どうだった、フェス」

「今年は三連休じゃなかったので、去年より来場は増えました」



近郊のイベントは、大型連休だったり天気がよかったりと、出かけやすい時ほど、人の入りが少なくなることがある。

みんな思いきって遠出をしてしまうので、かえって近場に立ち寄らなくなるのだ。


ジレンマだよなあ、と言って、上着を脱ぎながら新庄さんが寝室に入った。

仕事以外の話をしたくて呼んだんじゃ、なかったっけ。



6畳ほどのダイニングは、知らない家の匂いがする。

ローテーブル、ラグ、小さなソファ、テレビなど、ひととおりそろっていて。

ダイニングというより、簡易のリビングって感じだ。



「独身ひとり住まい、って感じですね…」



そうつぶやくと、引き戸で隔てられた部屋から、実際そうだろ、と返事が来た。


横浜の部屋は、分譲マンションの賃貸だったので、ここより数段グレードが高い。

ここも、こぢんまりしているとはいえ、新しいし、質はいいみたいだけど。

新庄さんの選ばなそうな無機質なインテリアたちが、どうしても、仮住まいという雰囲気をかもしだしている。



「座れよ」



ロングTシャツにジャージという姿で戻ってきた新庄さんが、ローテーブルの上の煙草を一本くわえて、火をつけた。


その煙がふわりとただよってきて、私はようやく安心した。

新庄さんの匂いだ。


開けっぱなしの寝室をのぞくと、ダークカラーのスチールで統一されたベッド、チェストが目に入る。

チェストの上の置き時計は、元からあったんだろう。

家具つきマンションのほうが、元の部屋より生活感があるというのも、笑える。



「どうですか、住み心地」

「ベッドが狭い」


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