オフィス・ラブ #3
ラグに腰を下ろした新庄さんが、不満そうに言った。

確かに、小さめのシングルだ。

新庄さんの体格だと、あれじゃゆっくりできないだろう。



「ふたりで寝たら、たぶん片方落ちるぜ」

「じゃあ私、壁側でお願いします」



隣に座りながらしれっとそう言うと、じろりとにらまれた。



「壁側、嫌がってただろ」

「出入りする時、新庄さんを起こしてしまうのが嫌だっただけです」



本当だ。

泊まると、たいてい私のほうが早く目を覚ますので、起こさずに降りられるようにと、いつも外側に寝ていたのだ。

落とすのはいいのか、と低く言う新庄さんに笑って、その頬に素早くキスをする。


完全に不意を突かれたらしく、新庄さんはびっくりしたように私を見て。

そうだった、と笑うと、煙草を持っていないほうの手で、私を抱き寄せた。



やっと、今日初めての、キスをくれる。

別れたあの日以来のキスは、温かくて。


自分は、こんなにこの人が恋しかったんだと、実感させてくれる。


直前のやりとりがやりとりだっただけに、どこか笑いをこらえているような新庄さんのキスは。

彼も、私に会えて喜んでいると。

そう思わせてくれるような、楽しげな、浮かれたテンポで、くり返し、重ねられる。


その首に腕を回して、しがみつく。



狭くていいから。

私が外側でもいいから。

今夜は、同じベッドで寝たいです。



シャツの下に感じる、肩の厚みと、体温を確かめる。

私の身体は、もうすっかり新庄さんの感触を記憶していて。


それがそばにあることで、やっと自分が完全になったみたいに、安らいだ。

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