オフィス・ラブ #3
「そりゃ、新しい本部長ってのが、宣伝に関して、まるで素人か」
うちに恨みでもあるか、だな。
テーブルにひじをついて、片ひざを立てた新庄さんが、考えこむように煙を吐く。
なんだかんだ、話題が仕事のほうに向いてしまうのは、もう仕方ないらしく。
新庄さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、私はシェアを均等にする動きについて説明した。
恨み。
以前の私なら、そんな理由で組織が動くなんてありえない、と思っただろうけど。
今は、笑えない。
「前職は、商品企画だったと思います」
「じゃあ、商企の副本部長か?」
驚いたように、こちらを見る。
新庄さんが出した名前は、確かに新しい本部長のものだった。
そうか、新庄さんは、製品チームにいたから、クライアントの商品企画部と交流があるんだ。
どんな方ですか、と訊くと。
うーん、と新庄さんがわずかに眉をしかめて、コーヒーカップに口をつける。
「難しい人だな、昔気質というか」
「6部に、つきあいのあった人は…」
「課長。他は、もう向こうが偉くなった後だから、知らないだろ」
そうか、ついてない。
あそこの商品企画と宣伝は、微妙に仲がよくないと聞いたことがあるから、私たちにもいい印象がないんだろうか。
そう訊いてみると、新庄さんはまた難しい顔をした。
「思い当たることが、ないでもないんだが…」
ひじをついた手を、記憶より少し伸びた前髪に差し入れる。
そのまま思案するように、しばらくコーヒーカップをにらんでいた。